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MONOSASHI file06

Ryan Takeshita's MONOSASHI

測った瞬間に忘れろ

MONOSASHI file06は、熱量のあるコンテンツを配信するビジネス映像メディア「PIVOT」のチーフ・グローバルエディター、竹下隆一郎さん。新聞の経済記者やインターネットメディアの編集長というキャリアの中で、自分がモノサシを持つだけでなく、それを共有することが重要だと考える竹下さん。これまでの人生でどんなモノサシに触れ、今何を考えているのか、竹下隆一郎さんだけのMONOSASHIについて教えてもらいました。

かとモノサシを共有する時代に

Q.MONOSASHIコンセプトは「自分だけのモノサシを見つけよう」ですが、竹下さんだけのモノサシについて教えてください。

ちょっといきなり否定するようで申し訳ないんですが、私はモノサシが今の時代は必要ないと思っています。順番に説明します。昭和から平成に入り、旧来型の日本社会の「正しさを押し付けられる時代」からの解放のために、「自分のモノサシを持とう」という時代的な盛り上がりがあった。とても大切な動きで私も自分のモノサシを磨いてきました。その上で、令和になり、コロナ禍やAIの圧倒的進化を経験した現代においては「正しさを共有する」時代に入ったと思います。自分だけのモノサシは大切だけど、それをいかに共有して、誰かと同じ共通のモノサシを持つかっていうようなモード。そこを自分は大切にしているところです。自分のやりたいことと他人のやりたいこと。その共通項を見つけることに力を注いでいます。それは当然、自分がモノサシを持っているっていう前提の上です。

もし10年前に同じ質問をされたら、他人に押し付けられたくないから自分のモノサシを持とう!って言ってたかもしれないですが。今は自分がモノサシを持っているという確信があるので、それだけを振りかざしていたらただの独善的な人になっちゃう。いかに他人とそれを共有するか。グラデーションの物差しになってる気がします。

Q.グラデーションですか。ただ、他人と共有するためにも、ベースとなる自分のモノサシは必要だということですよね。

その通りだと思います。私のベースとしているモノサシは、自分がご機嫌でいられるものを大事にしようっていうことですかね。社会に出ると機嫌が悪い人が多いことに気づくはずです。みんなイライラしてるっていうか。もっと言うと、自分で自分のご機嫌を取れる人がもっと必要で、他人にご機嫌をとってもらうのは良くないと思うんです。それが成熟することだと思います。日本の企業社会は、正社員の男性が「機嫌よく」働けるようにする構図が、構造的な差別を生み出していたと思います。性別によって、この場合は女性ですが、補助的な仕事のみをさせたり、家庭で家事を一手に引き受けてきた存在があったからこそ、男性が非常識的で非人間的な働き方ができた。もちろん選択的にそういう役割を選んだ人は別ですが、男性の不快指数を単に取り除くために差別構造を、男性が強制していた面も否めない。家事も仕事も、公平にやった方がいいし、自分で自分のことができて、自分で自分の機嫌を取るって大事だなと思います。

20代で「嫌い」をはっきりさせて、検証する

 

Q.竹下さんのお話を聞いていると、「こうなりたくないな」という考えからモノサシが生まれている気がします。

 

ご機嫌とはちょっと逆行するようですが、やっぱり人間って成長するときに、若ければ若いほど嫌いなものをはっきりさせるって大事だと思うんですよね。最初は「自分はこれだけ許せない」っていうネガティブから出発してもいいんじゃないかなと思います。そこには人の価値観が表れると思うんですよね。どうしても嫌いっていうのは自分のモノサシを作るきっかけになる気がします。ただそれを外に出したり、他人にぶつけたりしてはいけない。肯定するのではなく、まず認めて、そこから自分を変えるのです。肯定と認識は違います。

 

Q. 若いうちに嫌いなものをはっきりさせることは、勇気が必要で怖い作業ではないのですか?

 

人間なので、嫌いという感情は否定できないと思います。20代という自分が本当に成長する時に嫌いなものをはっきりさせちゃう。その上でモノサシを作って、ポジティブに生かしていくっていうのがいいんじゃないかなと思いますね。

どうしても運動が嫌いとか、どうしても牛乳が嫌いとか、あるいは黒い髪がどうしても嫌いで自分は色を変えたいっていう人がいてもいいと思います。もっとそういう人が増えてほしいし、それは他人には絶対変えられない。

自分の中に湧き起こってくる好きと嫌いに一度向き合ってみて「なんで自分はすごく好き・嫌いなんだろうな」って。好きと嫌いを検証して、この好き嫌いに正当性があるなと思ったら自分のモノサシにする。金融機関がシステムの安全性を調べるのと一緒で、自分の嫌いが本当に安全かどうかっていうのを考えて、ストレステストするってのは大事だと思います。

 

Q. そういう考え方が身に付いたきっかけはありますか?

 

私の場合、小さい時はアメリカに住んでたので、アジア人差別を嫌というほど受けました。自宅の郵便受けが壊されたこともあります。どうしても差別が許されないっていうか、差別は嫌いだっていう思いからスタートしました。かといって差別をしたアメリカの人にヘイトを向けるんじゃなくて、そうならない社会のためにはどうしたらいいのかってことを考えていました。そこで当時、アメリカの友人の動画を撮って、日本に帰国時にその動画を日本の友達に見せたんですよ。友達がその動画を見たあと、映像に出ていたアメリカ人に手紙を書いてもらいました。私がその手紙を持ってアメリカへ帰ったら文通が始まりました。まるでフェイスブック「以前」のフェイスブックですね。若者の日米交流が進みました。

一瞬でも止まってしまった瞬間に、自分がやったことは過去になる

Q. 他に大切にしたい竹下さんのモノサシはありますか?

 

「前に進んでいるかどうか」も、自分のモノサシかもしれません。宇宙物理学者BossBっていう方を知ってますか?TikTokで発信している信州大学の先生です。BossBさんに番組のゲストに来てもらって面白かったのは、我々は常に過去しか見えていないということです。(PIVOTのBossB​さんのインタビューはこちらから)​私は今、目の前にいるMONOSASHIの編集部の方と向き合っていますが、1,000億分の1秒前の光が今僕に見えてるだけなんですよ。そういう意味で言うと周りは過去しかないので、もう常に動き続けないといけないなと思ったんです。どんどんお互い動いてないと、過去で溢れちゃうというか。一瞬でも止まってしまった瞬間に、自分がやったことは過去になって社会を決めてしまうじゃないすか。だから常に前を向いて、何か一歩でも、とりあえず社会を良くして、次の世代に繋げていくことをやらないといけないと思うんですね。だから、さぼっちゃいけないと思って。

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就活のときに30代の方にOBOGを訪問したんです。ある会社の人が、会社に不満を持っていたんですね。僕も学生だったんで、「変えればいいじゃないですか」って聞いた時に、「いやいや、サラリーマンなんだから、20年経って権力を持ったら変える予定だ」って言ったんですよ。なるほど、だから今は我慢してるんだと思ったんですが、最近たまたまその人に会ったら、50代くらいになっても何もやってないんですよね。自分は若いから今は我慢していつか変えるぞって思っていたとしても、もうその瞬間に、ある意味老化が始まっていて、過去になっちゃってるじゃないですか。だから、その瞬間瞬間で変えていかないと、もう待ってくれないと思うんです。

日本のジェンダーギャップも同じですよね。次の世代から変わるだろうとか、何か自然と世の中変わっていくんじゃないかってみんな思っているんですけど、一瞬一瞬で変えていった方がいいと思うんです。一瞬一瞬を、前向きにしていかなきゃいけないっていう。

最近、品川区長が女性になったんですが、その品川区長が女性の教育長を任命したんです。やっぱりそういう変化って連鎖していくんです。しかも物理的に変わらなくても、人の思考は変わるっていうのが大きい。とにかく前に前に進むっていうのは大事なんですよね。今その瞬間にやっていかないといけない。それはさっきの話の就活で会った人みたいに、今我慢して20年後にやるっていうのは絶対嘘で、今やってないと絶対変化しないと思うんですよね。

 

Q.凄まじい量の情報をインプットしているからこそ、 モノサシが深まったり、変ったりすることはありますか?

 

やっぱり、モノサシを当てはめた瞬間にそのものそのものが変化してる可能性があるんですよね。例えば、氷を測って5センチだと分かっても、5分後に氷って溶けるじゃないですか。5センチじゃなくなっているのに、さっき測ったから氷は絶対5センチだって思っちゃったらよくないんですよね。モノサシを使った瞬間にそれが唯一絶対正しいんだって思っちゃう瞬間がきたらよくないと思うので、常に変化してるものだって考えるのがいいと思います。それは自分のモノサシもそうだし、何より相手が絶対変化していると思うんですよね。だから、たとえ相手が自分に同意してくれていても、その次の瞬間心が変わってくるかもしれないじゃないですか。それは、すごい気にしています。常に相手に確認したり、同意を求めたりってことはすごく大事ですね。そういう意識で人と接した方がいいと思います。毎回確認して、それは相手にとって鬱陶しいかもしれないけど、相手の気持ちは変わってるかもしれないっていう前提で生きるってことは本当に大事だと思います。

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測った瞬間分かるし、ある程度把握できると思うんですけど、もうその瞬間には忘れないと。つまり、そのもの自体が変化してるって思うこと。自分のモノサシを出してきて、相手がいいモノサシだね、あなたに賛成するよって言ったとしても、もう次の瞬間忘れて、次会ったときにもう1回自分のモノサシを差し出して、新しく測り直すってことがすごい大事だと思います。万物は流転する、万物は測った瞬間にすでに変化していると思うことが大切なのかもしれません。

MONOSASHI編集長・HI合同会社インターン / 松井瞳

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