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​MONOSASHI file06

MONOSASHI file21

Jimpei Hitsuwari’s MONOSASHI

曖昧なまま漂う

MONOSASHI file21は櫃割仁平さん。普段は美的感情について「俳句」をテーマに研究し、日本学術振興会育志賞を受賞するなど、研究者として活躍する傍ら、教員を目指す若者や先生を支える学生団体「Teacher Aide」を立ち上げるなど教育の分野でも活動してきた仁平さん。5月からはドイツへ拠点を移し、引き続き研究活動を続けます。ドイツへ旅立つ前日に、今回は仁平さんだけのMONOSASHIについて教えてもらってきました。

Q. MONOSASHIの取材では、ゲストにお気に入りの洋服を着てきてもらうプチコーナーを実施していますが、今日はなぜこの衣装を選んだのですか?

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環境へ配慮した行動をしたいと思っていて、”remer(リメール)”というブランドに出会いました。元々は特に服へのこだわりがなく、ユニクロやGUも着ていたのですが、大量生産のものは避けたいと考えるようになり、自分に最も合うブランドを探しました。その中でremerに出会い、大体の服はそのブランドを着ています。デザインが好きだし、ミニマムでシンプルという所も好きです。その中でも特に色の部分に自分の美意識も反映されてる気がする。くすみカラーが好きなので、今日のズボンはカーキ色を選びました。パレットの12色の中にも実際はたくさん色が展開していて、そこへの解像度にこだわりたいと思っています。

 

Q. 色にこだわるときの指針はありますか?

 

かなり直感的に選んでいます。研究にも繋がるけど、曖昧が好きなんです。研究でも俳句の「曖昧さ」を研究しています。赤と青だけじゃない、その間のグラデーションが好きです。そういうところに惹かれているのかもしれないですね。

 

私の第一優先は、

「自分がワクワクすること」と「居心地が悪くない」ということ。

 

Q. 早速ですが、じんぺいさんだけのモノサシを教えてください。

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日に日に変わっている感覚はあります。5年ぐらい社会活動をしているけれど、社会を良くしたい、というモチベーションでやっているわけではないんです。私の第一優先は、「自分がワクワクすること」と「居心地が悪くない」ということ。その次は「パートナーと周りの大切な人たちを大事にすること」。これは、半径何メートルという範囲の話です。例えば、学生団体の代表をしていた時の話になるのですが、学校の先生をしていたパートナーがすごく大変そうだったんです。先生になりたくて先生になっているのに、先生をしていて辛そうなのは理不尽だなと。そんな状況をどうにかしたくてTeacher Aideという学生団体を立ち上げました。今では自分が想像していたよりも大きくなっていて、これはパートナーを大事にしたいと思って始まった団体が、顔の知らない人たちを巻き込むというより、顔の見える自分の周りの友達集団で大きくなったということだと思っています。

 

少しずつ自立していく中で、誰かのために、

特にパートナーを大切にしたいという思いに行き着いた。

 

Q. じんペいさんの想いから多くの人が集まったんですね。一番最初に誰かを大切にしたいと思ったきっかけはありますか?

 

考えたことがなかったです!誰かを大切にしたいという意味では、家族はすごく大切かもしれない。というのも、僕は6人きょうだいで、みんな仲良しなんです。でも、きょうだいを大事にしたい気持ちとパートナーを大事にしたい気持ちは、意外と違うかもしれない。きょうだいはみんな自立しているから、手を差し伸べたいという感じではないんです。だからやっぱり、最初に大切にしたいと思うのは、パートナーです。僕、妻大好き人間なので(笑)。大学生の時は、生きるのに必死で、モノサシとか考える余裕がなかったんです。でも、やっと少しずつ自立していく中で、誰かのために、特にパートナーを大切にしたいという思いに行き着いた気もしますね。

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Q. 妻大好き人間、気に入りました!(笑)じんぺいさんの考える「自立」とは何ですか?

 

消去法的な話になりますけど、妻は先生の仕事をしていて僕は大学生だったので、経済的には妻の方が自立していました。つまり、「自立」と「経済的な自立」はイコールではないんです。では経済的とは関係のない「自立」とは何かと問われると、うーん、、よく分かりません。妻が自立していなかったというのも失礼な話ですよね。やや撤回させてください(笑)。世界を見渡した時に困っている人は確実にいるけれど、全員に手を差し伸べることはできない。自分がそこで、なぜ先生や教育というキーワードで活動したのかというと、自分の興味と大切な人との掛け合わせだったのかもしれない。だから、自立してるかどうかより、自分が手を差し伸べたいかどうかの方が大事だったのかも。

 

原動力は、「あなただからおせっかいしたい」。

 

Q. 自分が手を差し伸べたい人にちゃんと手を差し伸ばせるのって本当に素敵です。そんなじんぺいさんの原動力は何ですか?

 

最近、コミュニティナースという言葉を良く聞きます。(*コミュニティナースとは、職業や資格関係なく、暮らしに溶け込んで地域の人たちと一緒につながりを育むことで、健康でウェルビーイングな毎日を一緒に作る人たちのこと。)コミュニティナースのキーワードは「おせっかい」で、困っている人を待つのではなく、自分からおせっかいしに行っちゃう。今思い返せば、僕の行動も結構おせっかいですよね(笑)。その人が困っているから、自分が助けたいと思う。僕の原動力は、「あなただからおせっかいしたい」。

*コミュニティナースポータルサイト「コミュニティナースとは」株式会社CNCより

 

Q. おせっかい、じんぺいさんにぴったりだと思いました。一方で、じんぺいさんの一つの軸である研究はどんなモチベーションで続けているのか気になります。

 

実は、社会起業家と出会うたびにコンプレックスを感じることがあります。自分は社会を原動力に動けていないところや、それゆえに長続きしないところがあるからです。でも、研究はずっと続けられる自信があります。研究は割と自分に矢印を向けた状態で、「知りたい」とか「明らかにしたい」というモチベーションでできるから。僕が研究している「人は何に美しいと感じるのか」や、「芸術を見た時に人はどうやって鑑賞しているのか」といったテーマも、すぐに社会に役立つものではないから、自分から湧き出るモチベーションを大切にしています。

 

研究を始める前からずっと

曖昧なものに惹かれていたのかもしれない。

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Q.「美しい」や「芸術」を研究対象としてフォーカスしたのはなぜですか?

 

元々は「感動」についての研究がしたかったのですが、「感動」が指す範囲があまりにも広く、研究対象の範囲を狭めることにしました。そこで、昔からずっと芸術が好きなのもあって、「感動」に内包される「美しい」を研究することに決めました。自分の芸術が好きな理由を考えてみると、日常生活の中では嫌がられるようなものが、芸術の中では「美しい」と捉えられることに面白さを感じるんです。例えば、「曖昧」を考えてみると、普段のメールやコミュニケーションのような言語のコミュニケーションでは、絶対に曖昧じゃない方がいい。だけど、俳句や小説といった媒体になった途端、「なんか曖昧だけど美しい」と捉えられるのが面白いなと思いました。だから、好きな芸術の中で何かをしたいと思って、「美しい」をテーマに研究を進めてきました。でも、もしかしたら研究を始める前からずっと曖昧なものに惹かれていたのかもしれない。

 

Q.じんぺいさんが曖昧なものに惹かれる理由がすごくよく分かりました。じんぺいさんの曖昧さについての言語化をもう少し聞かせてください。

 

「間(あわい)」みたいな言葉でも表現できるかもしれない。人との関係性の中でも間(あわい)を感じる場面がよくあります。パートナーに対しても、パートナーだけど自分でもある、みたいな感覚があるんです。つまり、自分が楽しく生きるためには、パートナーも幸せでいてもらう必要があるということ。もしかしたら、誰かの幸せと自分の幸せはやっぱり繋がっているから、自分の一部だと感じるのかも。パートナー本人には、この話をすると、何言ってんのって言われるんですけどね(笑)

 

曖昧さや間(あわい)について考えていると、研究という営みが実はあまり自分には合っていないかもしれないと思うことがあります。研究はある意味で、曖昧さを潰して一般化していかなくちゃいけない。芸術の場合は、曖昧なままでも「このままいっちゃえ!」ができるけど、研究はそれができない。曖昧さをそのまま面白がりたい自分と、研究をしている自分に矛盾を感じることがあります。

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Q.じんぺいさんがそんな風に矛盾を感じていたとは意外です。研究をしながら感じている矛盾にどのように対応しているのですか?

 

メインテーマである「美しい」や「芸術」の研究をする傍ら、実はずっと前からサブテーマとして「ネガティブケイパビリティ」の研究もしています。ネガティブケイパビリティとは、曖昧さを曖昧なまま受け取る能力のことで、これからの時代にすごく重要視される能力だと考えています。僕自身、その能力がすごく高いと思います。例えば、その場で答えを出さなくてもいい場所では、居心地が悪くて早く答えを出したくなってしまう場合があると思うのですが、僕はそこに居座り続けることが苦痛ではないのです。

ネガティブケイパビリティは、社会に役立つかもしれないと思っている。これまでの研究でたくさん取ってきたデータの中で、僕が最も好きなデータがあります。それは、「俳句を読んだり作ったりすると、『ネガティブケイパビリティ』がちょっと上がる」という結果です。俳句は、たった17文字という俳句の中に自分の伝えたいことを全部詰め込むのは無理だからこそ、どこかで何かを諦めたり、言えないもどかしさと向き合ったりする中で、曖昧さに触れ続けられる。その営みを通して、曖昧なままでもいいじゃん!と思えるのが、この研究の好きなところです。

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Q.改めてこの記事はどんな人に、どのように届けたいですか?

 

いろんな人に読んでほしいです。僕は、肩書きやキャッチコピーを探している最中。今までは、肩書きのような曖昧さがない、明確なものに自分を収めるのが嫌で、何となく肩書きを探すことを避けていた部分がありました。だけど、肩書きのように一言で自分を語ることも時には必要だと思うフェーズになってきました。だから、とりあえず今は、この記事みたいに一言で説明できないもので自分を知ってもらいたいので、「この曖昧な記事を読んでください!」って言いたいなと思います。その中で、自分にしっくりくる肩書きにも出会えたらいいな。

MONOSASHI編集長・HI合同会社インターン / 松井瞳

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interviewer :Hitomi Matsui , Ryoma Iizuka

editor : Sawako Hiramatsu , Mashiro Takayanagi

photographer  : Hitomi Matsui , Kiho Umezu

creative designer : Sawako Hiramatsu , Mashiro Takayanagi

character designer : Rei Kanechiku

location  : 東京新国立美術館、喫茶館 Bleu Montagne

2024.06.07

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