
MONOSASHI file06

MONOSASHI file30
Maki Sasaki’s MONOSASHI
〜愛しい循環〜
MONOSASHI file30は佐々木麻紀さん。自然豊かな北海道洞爺湖町で、科学的な肥料・農薬に頼らない循環型農法でお野菜を育てる佐々木ファーム代表の麻紀さん。麻紀さんのファームでは年に一度、全国の若い世代がファームに集い、自然の循環を体験する「ちきゅう留学」も開催されています。常に世代を超えたつながりを大切にする姿勢が印象的な麻紀さんに、麻紀さんだけのMONOSASHIについて教えてもらいました。
Q. 読者の皆様に自己紹介をお願いします!
佐々木ファームの5代目代表、佐々木麻紀です。49才です。私のアイデンティティは、自然が大好きな農家、母、そして、食べることが大好きな人です。
今日も誰かと共に生きてる
Q. MONOSASHIの取材では、ゲストにお気に入りの洋服を着てきてもらうプチコーナーを実施していますが、今日はなぜこの洋服を選んだのですか?
私は服にあまりこだわりがありません。私が着る服は、お客さんの服や顔がわかる人がつくる服など、想いが入ってるものが多いです。例えばさっきまで着てたのは、ヒグマドーナッツさんというお客さんの服で、その服に込められた想いを着ている感覚。この人たちの想いに共感して、服を一緒に着ています。他にも今着ているパンツは、佐々木薫さんのワークパンツ。私がきている服は、デザイン性よりも、機能性とコンセプトの方が大切で、「今日は誰かと一緒に生きてる」と思える服を着ることが多いです。今は田舎のここでポツンと農家はやってるかもしれないんだけど、社会の皆とつながり、共に生きていると思っています。

Q. 誰かの想いと共感しあうことが麻紀さんにとってキーワードだと感じました。麻紀さんが大切にしているものはありますか?
私はどんなモノサシを持っていたいのかを考えたときに、これまでは良し悪しのジャッジで物事をとらえてしまっていたことに気がつきました。肥料を入れた方が良いのか悪いのか。お客さんにとって良いのか悪いのか。常に良い悪いはそれぞれの価値観で、多様でいい。そう思うと分からなくなってしまうことも。だけどある日ふと、良い悪いを「愛しい」に変えると私の答えは明確だと気づきました。「良い循環であるか?」という問いかけでは、必ず悪い存在が出てきてしまう。例えば、無農薬であれば、農薬を使った人が悪いなんていう議論に発展したりは残念。そうではなく、自分にとって気持ちがよくて楽しいことを、自分自身で望んで始める。それが他の誰かにとっても楽しくて嬉しくて、私はその人たちが喜んでるのを見て愛しいと思う。もちろん自然にとっても愛しい循環は絶対必要。そういう循環になっているのが楽しい。いや、楽しいよりも愛しいにしてみると、愛しいか愛しくないかはすぐ決まる。だって、愛しいは心から湧き出てくる、ごまかしが利かないものだから。
自分達の偏った世界ではなく、もっとふくよかで豊かな、
ぐるっと360度みんなで見られる世界になればいいな
Q. 「愛しい循環」が軸としてあるんですね。他にも麻紀さんが大切にしていることはありますか。
愛しい循環であるかと同じくらい、「自分には必ず見えている面と見えていない面があること」を前提にすることを大事にしています。人は、見たいものだけに集中して目に映し出していると思っていて、そこには必ず死角がある。だから、色々な人と一緒にいれば、自分には見えない面を教えてくれます。人によって見える面と見えない面があって、自分にも見せたい面と見せたくない面がある。でも見せたい面や、こうしたいと思えるものには限りがあるから、色々な人の面を合わせていくことで、もっといいものを作っていけるのではないかな。つまり、自分だけで考えていると、自分の思考を超えられない。自分の中だけで収まっていると、知らない価値や多様性に気付けない。アイデアも創造性も偏ってしまう。だから、自分達の偏った世界ではなく、もっとふくよかで豊かな、ぐるっと360度みんなで見られる世界になればいいな。

価値観の眼鏡を付け替えながら世界を見て、
その眼鏡を通して情報をダウンロードしている。
Q. 無意識のうちに写していないものがたくさんあるような気がしてきました。
人は、価値観という眼鏡をそれぞれかけていますよね。個性は変わらないけれど、価値観の眼鏡を付け替えながら世界を見て、その眼鏡を通して情報をダウンロードしている。例えば、同じ人を見ていたとしても、価値観の眼鏡が違うとその人が全く違う人としてダウンロードされることがあるかもしれません。言葉に出すと受け止め方や認識、そもそも言葉の理解への差が生じることがある。それが、言葉の持つ限界であり、怖さだと思う。だから自分が発信する時は、良い悪いではなく、自分がこういう世の中が好きで、自分がやりたくてやっていると自分流の生き方をしている、ということを伝えなければいけないと思っています。みんなそれぞれの正義や価値観があるから。だから、自分と違う意見の人に対しても、この人の価値観の眼鏡は、どのように形成されたのかを見るのが好きです。自然や野菜たちも同じだけど、それぞれの背景にはそれぞれの環境があって、必ずそこには理由がある。体験だったり、天気だったり、土壌だったり、親の価値観や育った国だったり。人によって背景が違うからこそ、良い悪いよりも、自分が楽しくてやりたいことを自分が選んでるだけなんだと思います。どんな価値観の眼鏡を自分が背負いながら生きたいのかという風に考えるようになってきました。

Q. 自然や野菜たちも同じように考えているところが麻紀さんらしいと思いました。価値観の眼鏡は環境によって形成されるとのことでしたが、環境についてはどんな風に考えているのですか。
環境の大事さを年々強く感じています。食卓の環境、親の話す言葉の環境、感情の環境。その中でも小さい頃の環境は、人間形成において特に大きく関わっていると思います。野菜たちも同じで、大きさは豊かさであるけど洞爺の空気は澄んでいて水が綺麗だから、そんな環境でのびのび育った野菜は絶対に美味しい。でも、この環境って当たり前じゃないからこそ、大切なことを大切にしていたい時に意図的に守らないといけないと思うんです。実際にはこんな良い環境の洞窟でさえ、幼少期を過ごした30〜40年前とは大きく変わり、虫も動物もありとあらゆる生き物の多様さと数がかなり減少していることを悲しく思います。この自然を100年先にも残したいという想いがあるから、ちゃんと守って、美味しさや豊かさを繋げていきたい。そのためにこの農業が必要だし、農業だけじゃなくてその意味を畑で伝える必要があると思います。

人間だけでなく全ての動物が食事をしていて、
生きる喜びや幸せに一番近い動作だからこそ、
食で地球を癒せると思う。
Q. 麻紀さんの思い描く世界とはなんですか。
食べるという行為は、混ざりっけがないから、自分の心や体が今何を言っているのかが明確になるし、自分の志や生き方を表現できると思うんです。土の香りがするとか、大地の味がするとか、お日様の匂いがするとか、自分のあるがままを育めるような環境を作るお手伝いをそこに共感する仲間たちと集って、地球規模でやっていきたいです。
社会が、世界が、地球が、宇宙がって言うと「麻紀さんずいぶん大きいこと言うな」って思われがちなのですが、自分一人で地球を何とかしようとは思っていません。自分は変革する因子になって、人と人の強い繋がりが各地で広がって、それが最終的に既存の価値観をひっくり返していくと思っています。やっぱりみんなと繋がって、世界中の人と一緒にやれると信じて動くことが大事。

Q. 麻紀さんにとって「食」とはどのような存在ですか。
誰しもが思うことは、死にたくないと、幸せになりたいということ。絶対死ぬのは決まってるから与えられた命を一生懸命謳歌して思いっきり、悔いなく生きる。生ききれたのなら、悔いが残らなく死ねるんじゃないかな。幸せになりたいという思いは、愛されたり、愛し合ったりすることが元になっていて、それが出来なかった時に悲しみや怒りを感じてしまう。だから、幸せの一番の大元は「愛で生きれているのか?」なのよ。そこに気がつくと早いしより幸せになれるし、その一番近くの行為が食にあると思うんです。誰もが1日最低1回は食事をして、美味しいって喜び合う。人間だけでなく全ての動物が食事をしていて、生きる喜びや幸せに一番近い動作だからこそ、食の豊かさで地球を癒せると思う。

最後に、読んでくれる人は若い世代の人たちが多いだろうから、若い世代の人たちに向けてのメッセージです。自分の中の生命力というのは、自分でも思ってもみないほどすごく強い。どんな人にも自分の力が眠ってるっていうことを忘れないでください。分からなかったら洞爺湖の佐々木ファームに遊びに来てください!
MONOSASHI編集長 / 松井瞳

interviewer :Hitomi Matsui
editor : Hitomi Matsui , Sawako Hiramatsu
photographer : Ryo Tauchi
creative designer : Sawako Hiramatsu , Mashiro Takayanagi
character designer : Rei Kanechiku
location : Sasaki Farm (Toya, Hokkaido)