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​MONOSASHI file06

MONOSASHI file19

Mariko Ogata’s MONOSASHI

変わる

MONOSASHI file19は、尾形真理子さん。コピーライター、クリエイティブディレクターとして、LUMINEをはじめ、資生堂、Tiffany&Co.、キリンビール、NETFLIX、FUJITSUなど多くの企業広告を手がけてきました。見る人の共感を生む数々のクリエイティブを世に送り出してきた、尾形さんだけのMONOSASHIについて教えてもらいました。

Q. MONOSASHIの取材では、ゲストにお気に入りの服を着てきてもらうプチコーナーを実施していますが、今日はなぜこの衣装を選んだのですか?

私は身長が175cmくらいあるため、子どもの頃から洋服を楽しむことで自分という存在と付き合ってきました。だから、洋服はすごく好きだし、私が書く文章にも洋服が出てくることが多いのはそういう影響があるのかもしれません。

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今日着ている服は、みんなから「シャーロックホームズみたいだね」とか「名探偵ポワロみたいだね」とよく言われます。トラッドなチェック柄の上着なのですが、洋服がきっかけでそんな会話が生まれることが面白いなと思って選びました。洋服がコミュニケーションツールになることは、自分の好みの一歩先に行ける感じがして面白い

「考えに合わせて生き方を選べる大人になりなさい」

Q.好きな洋服が会話にも繋がるなんて素敵です。早速ですが、尾形さんのモノサシについて教えてください。

学生のみなさんは、受験や就職活動を頑張って、一つずつステージを進みますよね。けれども人生は、それで何かをクリアできるわけじゃない。大学に入ればどうにかなったわけでもないし、会社が決まればどうにかなるわけでもない。昔は期末テストが終わったら夏休みになって幸せが保障されるとか、そんな風に捉えていたものが年を重ねるにつれて、ステージが進んでも別に人生はどうにもならないと気づく。だからこそ、「一旦ここでこう決めたけど、その先も考え続ける」ということは、意識してきたと思います。

小学生の頃、ある先生が「人間は、年を重ねると、生きている状況に合わせて物事を考えるようになる。そうではなくて、自分の考えに合わせて生き方を選べる大人になりなさい」と言っていたことがすごく記憶に残っていて。小学校3、4年生の私がその意味を理解していたかどうかは怪しいものですが、今思えばとてもいい言葉だったなと思います。何かが起こってから、辻褄を合わせるように物事を考えるのではなく、なるべく思考を先導として、実現するよう心がけています。つまり、流れに身を任せすぎないことです。身を任せなさすぎるのもよくないですが。

私にしか書けないものはないけど、私なら書かないものはある

Q.制作された広告に対しては、周囲から様々な意見が寄せられると思います。どのようにして流れに身を任せすぎず、自分らしさを保たれているのですか?

仕事において、自分らしさみたいなものは、全く考えていないです

 

Q. 尾形さんご自身の「自分らしさ」と、尾形さんがつくられる広告の「らしさ」は、全く違うものだということですか。

 

小説やコラムとは違い、私が広告を通じて、個人的な考えを言うことや自分らしさを表現することはありません。だけど、私自身がすごく嫌だなと思っていることは、不思議と広告でも書けません。

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例えば、ルミネの「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。」というコピーだと、私自身は試着室で誰のことも思い出さないんですよ。服が好きなので、ひたすら服だけを見ています。でも、試着室で大切な人や気になる人を思い浮かべる人がいることは知っていて、自分とは違うその人たちはとても魅力的だと思うから、コピーにしたいと思います。

反対に、例えば生理用ナプキンの広告で、白いタイトスカートでお尻を振って歩く広告が流れることに対しては、 そういう身勝手な表現はしたくないと思う。だから、何を書くかよりも、何を書かないかという点に、私の価値観や意思が反映されている気がします

Q. 自分の感覚を信じている部分はありますか。

 

自分の感覚がすべてではないので、「こう言われたら欲しいと思う」という感覚だけを信じ過ぎず、データも見てリサーチします。どちらかというと、「これはちょっと都合がよく聞こえるよね」とか、「これはさすがに手前味噌だよね」といったネガティブチェッカーとして自分の感覚は活用していると思います。

 

Q.なるほど。試着室のコピーのように、自分とは異なる人への想像力はどのように獲得されているのですか?

 

ウェブなどではよく、自分とは違う価値観や考え方のコメントを拾っています。自分の仕事に対しても、嫌だという方のコメントを意識的に見るようにしています。なぜ嫌なのかを自分で気付けないのが一番怖いので。

だからといって、自分とは違う価値観を「それもあるよね」とすぐ自分の価値観にすり替えることはしません。自分が常識のセンターにいるわけではないので、世の中のどのあたりにいるのかを把握する意味でも、バランスを見ながら硬いものから柔らかいものまで接触するのは大切だと思います

 

Q.ご自身のコピーが「届いた」と感じるのはどんなときですか?

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ないですね。例えばルミネの広告は企業広告なので、見た瞬間に「ルミネに行こう」という気にさせるものではなくて、広告を見てからそのメッセージが届くまでに滞留時間が存在する。「なんかルミネっていつも女性たちのことを考えているよな」とか、「女性たちになんか伝えたいという熱量がルミネにはあるよな」みたいなことが、じわりじわりと伝わればいいと思っています

どうにもならない中で、

「指一本の置き場を見つける瞬間」が一番楽しい。

Q.直接届けられた実感はない中で、コピーライターとしてのやりがいはどんな時に感じられるのですか?

表現が難しいのですが、世の中の耳目を集める企画やコピーを考えるのは、崖に登るようなもので。目に留まらない、記憶に残らない広告が99.9パーセントではないでしょうか。自分が書くコピーだってほとんどは全然ダメで、私は、そんなものを日々書き散らかしていて、プレゼンできるかなという1本にどうにか辿り着く。その過程は、闇雲にただ書いているわけではなくて、何かに登ろうとしているんですが・・・。

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そんな中で、「この崖はこっちのルートなら登れるかも」「ここに指をかけるとぐっと上がれるな」みたいな、指1本の置き場を見つける瞬間があります。その瞬間がやはり企画やコピーを書いていて1番楽しい瞬間です。だけど、その楽しい瞬間はすごく地味だったりもします。窓の外を眺めてたり、電車に乗っているときに思いついたりするので。

Q.うまくコピーが書けない時、どのようにお仕事と向き合われていますか。

クリエイティブの仕事って、「考えつきませんでした」では仕事にならない。かといって、どれだけキャリアを積んだからといっても、クライアントが、世の中が、満足するコピーを自分が書ける保証はないんです。「次の打席でしっかり打つにはどうすればいいのか」と試行錯誤を繰り返しながら、どうにもなってないところから、どうにかするビジョンや具体策を考え続けるしかないんです。最初の頃から変わったことがあるとすれば、どうにもならない状況があるということをまず受け入れるようになったということです。

でも結局、それが面白いと思います。広告っていつの時代も過渡期で、これからのAIの進化でも、コピーライター、クリエイティブディレクターじゃないとできないことが、すごく変わっていくと思います。

ただ、この時代においてもこの業界には面白い先輩も後輩もいっぱいいて。どうしてこんなにも魅力的な人たちが多いのかなと思うと、やっぱり考えて作る仕事が面白いからだと思うのです。なかなかどうにもならならないけど面白い。すぐにどうにかなっちゃったら、飽きちゃうから。苦しいけど面白い、みたいな。嫌な仕事だなって思います(笑)。

 

Q.改めて、尾形さんのモノサシについて聞かせてください。

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変わるというのは、「前はこう思っていたけれど、今は違うかもしれない」ということに、1つ1つ対応していくことなのかもしれないです。

先ほど「どうにもならない」と言いましたが、ポジティブに言えば「アップデートし続ける」ということだと思います。以前は「ここまで来たら大丈夫、どうにかなる」と思える何かが欲しかった。でも、走り続けるしかないんだとわかってからは、今度はいかに楽しく走るかとか、疲れないで走るかが重要になった。

だけど、やっぱり省エネでタラタラやっていても仕事は面白くないから、長い距離を走れるとはどういうことかを考えてみたり、そんなことを考える時間がないほど仕事に追われることもあったり、そんな感じです。いくつになってもモノサシ定まらず。「変わる準備がある」ということですね。

MONOSASHI編集長・HI合同会社インターン / 松井瞳

interviewer :Mika Kokuryo
sub interviewer : Yukiho Yamamoto

editor : Hitomi Matsui , Mika Kokuryo

creative designer : Sawako Hiramatsu

character designer : Rei Kanechiku

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